はじめに
眼内レンズは医薬品ということになり、日本国内の保険診療で使用する際には、薬事法に定められた審査を受け、承認(薬事承認)を得なければなりません。選定療養において使用可能な多焦点眼内レンズは、全て薬事承認を経たレンズということになります。
ただ、世界に目を向けると、新しい多焦点眼内レンズが色々出てきております。勿論、各地域で、日本と同様の承認制度があり、アメリカの医薬品認証はFDA、EU諸国ではCEマークを取得すれば承認を受けた証拠となります。アメリカの企業(Alcon、AMO)は日本の薬事承認を取得しますが、EU企業(ドイツ、イタリア、ベルギー、オランダetc)は日本の薬事承認を取得する考えが無いため、EU発の多焦点眼内レンズを使用する場合は、完全自由診療となります。
ご存知の通り、日本の薬事承認を取得するには、ある程度の年月が経過してしまうため、自由診療で使用するレンズは、より直近に開発されたレンズということになります。
また、薬事承認を取得した眼内レンズは、製造範囲がある程度決まっており、かなり強度近視眼の方などは、ピッタリと合う度数が無い場合もあります。その場合、EU発の多焦点眼内レンズは、幅広い度数が準備されているので、安心して使用することが出来ます。
低加入分節型眼内レンズ
このレンズはドイツのオキュレンティス社の『低加入分節型眼内レンズ』といって遠方にピントを合わせる部位と、中間にピントを合わせる部位の組み合わせにより、複数地点にピントが合いやすいように工夫されています。レンズの下半分に+1.5D加入されており、70~5mまで、裸眼で見える設計になっています。更に、レンティスコンフォートは多焦点レンズ特有のハロー・グレアやコントラスト感度の低下も少ないです。
単焦点レンズよりは、焦点の幅も広く、手元も見やすいですが、読書や近方で行う作業は基本的には眼鏡が必要になります。
多焦点レンズでは唯一の「保険適応」であり、単焦点レンズと同じ費用負担となります。
多焦点レンズと単焦点レンズの間に位置するようなレンズと考えて頂ければと思います。
単焦点レンズをご希望の方で遠方から中間距離を重視したい方はこのレンティスコンフォートをお勧め致します。
メリット
保険適応 ハロー・グレアが少ない コントラスト感度が高い。 単焦点よりピントが近方に合う。 プレート型のレンズで眼内安定性が良く、後発白内障の発生率が低いことが期待されます。
デメリット
手元作業は不向き、青白く見える、薄暗がりでピントが合いにくい。
単焦点眼内レンズ
多焦点眼内レンズ
低加入分節型眼内レンズの詳しい説明
回折型レンズ
光をレンズの回折構造によって、遠方と近方(トリフォーカルレンズの場合は遠方・中間・近方)に分けます。通常の単焦点レンズや焦点深度拡張型のレンズに比べて、見え方の質を少し落とす代わりにターゲットの距離に光を配分し十分な視力を供給します。見え方の質を落とすと言っても、日常生活には影響は及ぼさないレベルです。夜間、暗がりで光を見ると、多少の滲み(ハロー・グレア)を感じますが、ほとんどの方は慣れるにしたがって気にならなくなります。
三焦点眼内レンズ
トリフォーカルレンズは今までの二焦点レンズでロスしていた光を中間距離にピントが合うように設計した遠中近の3焦点眼内レンズです。
メリット
遠方から近方まで幅広くカバーしているので、さまざまな生活状況で合格点の見え方。
デメリット
光配分が分散するので、中間、近方はなるべく明るくするなどの配慮が必要。ハロー・グレア。
五焦点眼内レンズ
現在(2020年10月現在)、日本で使用可能な最新の多焦点眼内レンズとなります。遠方、遠中、中間、近中、近方の5つに焦点が定められています。
メリット
全距離(遠方から40cm)において視力の落ち込みの妥協のないレンズと。ハローグレアは少ない
デメリット
光配分が分散するので、中間、近方はなるべく明るくするなどの配慮が必要。 近方が40cmにピントが合いやすくなるので、小柄なかたなどは少し遠く感じる可能性があり。
連続焦点型レンズ
連続焦点型レンズは連続的に見える範囲を広げたレンズとなります。
メリット
遠方から近方まで幅広くカバーしているので、さまざまな生活状況でより良い見え方。
デメリット
光配分が分散するので、中間、近方はなるべく明るくするなどの配慮が必要。 テクニスシナジーではハロー・グレアが感じやすく、脳の順応に時間がかかる場合もある。
各回折型レンズの詳しい説明
パンオプティクス
ファインビジョン
テクニス オデッセイ
テクニスシナジー
インテンシティ
Clareon Pan Optix パンオプティクス(三焦点眼内レンズ)※乱視矯正レンズあり Alcon社
このレンズの印象は、非常にバランスが取れており使いやすいです。
最大の特徴は、トリフォーカルであるということで、日常生活の様々な場面で、十分な見え方を提供してくれます。
PanOptixの主な特徴
実生活での作業に適した遠方・中間・近方の見え方のバランス型レンズです。
•読書やスマートフォーン使用などに適した「近方(40cm)」、パソコンや料理などに適した「中間(60cm)」、テレビ視聴や運転、ゴルフなどのスポーツに適した「遠方(5m以遠)」にピントが合うように設計されております。
明るさの変化の影響を受けにくい設計で、安定した見え方を実現。
•従来の多焦点レンズに比べて、明暗の変化による瞳孔収縮の影響を受けにくい設計
手術後約96% の患者様が眼鏡不要と回答。
また、遠方・中間・近方にピントが合うことで、単焦点や2焦点眼内レンズに比べ、実生活における眼鏡への依存度が低減
高い光利用率(88%)により、遠方・中間・近方のすべての距離において鮮明な視覚を提供できます。
•眼内レンズを通して眼内に入る光エネルギーをより多く網膜に到達させることができるため、鮮明で質の高い見え方を提供することが可能に。
Fine Vision HP PodGF (三焦点眼内レンズ) アメリカBVI社
BVI社独自のアポダイズド構造(レンズの中央部分と周辺部分で異なる回折構造を持つデザイン)を用いて遠方・中間・近方ともに良好な視力を提供。
日常生活で必要な幅広い距離をカバーできるように設計されており、眼鏡の依存度が軽減されています。
■ アポダイズド構造を使用することにより、ハローグレアを軽減
瞳孔が拡張する低照度下では、まぶしさを軽減させるため光エネルギーを遠用に配分されるよう設計されており、夜間でも良好な視界を得ることができます。
近方への光のエネルギー配分を高めた設計
明るくなればなるほど近方へのエネルギー配分が増える為、91.3%の患者様が眼鏡装用不要と回答されています。
■ FineVisionが向いてる方
バランスのよい見え方を希望され、夜間の車の運転をそれほどせず、近方の見え方を重視したいという方にはお勧めのレンズとなります。
TECNIS Odyssey テクニスオデッセイ ※乱視矯正レンズあり Johnson&Johnson社
2024年8月にJohnson&Johnson社から日本で発売開始の連続焦点型レンズ。 遠方から近方まで連続的範囲での視力を維持できます。 生活環境に適した、中間と近方にも視力が出やすい用に設計されています。 そのため手術後約92%の方が眼鏡不要に。
従来の連続焦点型では夜間のハロー・グレアが感じやすくなることが多かったですが、TECNIS Odysseyでは夜間光視症の発生率が低いと報告されています。
ハローは約93%の方がグレアは94%の方スターバーストは100%の方感じないまたは軽度とされています。
TECNIS独自のアクリル素材をすることにより、眼内レンズによる色収差を抑制し高いコントラスト感度が期待できます。
瞳孔径の影響を受けにくく、従来の多焦点レンズよりも薄暮条件下でもコントラストが良好。
連続焦点型レンズを検討されている方・多焦点レンズの夜間光視症が気になられている方はTECNIS Odysseyでは夜間光視症が感じにくいとされているのでお勧めです。
TECNIS Synergy テクニス シナジー ※乱視矯正レンズあり Johnson&Johnson社
連続焦点型レンズは焦点深度拡張型(EDOF)と遠近のに焦点レンズを融合させたレンズとなります。焦点深度拡張型は近方に弱点がありましたが、選定療養の中では手元の視力が1番出やすいレンズとなります。
TECNIS Synergy
光学部3mmのエネルギー配分 未発表
光学ロス 8~18%(瞳孔径により変化)
不明
瞳孔径によって使う回折ゾーンを変化させることによって、明所でも暗所でも同じような見え方になるような構造。暗所で回折効率を上げて光ロスを減らす設計。(メーカー発表)。
右のグラフはdefocus curve(デフォーカスカーブ)と言います。メーカー公表のもので、「各距離でどのくらいの視力が見込めるか」というのをグラフにしています。 一般の方には、非常にわかりにくいグラフですが、横軸の0が遠方視力、-1は1mでの視力、-3は33cmあたりでの視力になります。縦軸はlogMAR視力といって、これも一般の方には馴染みがありませんが、普段、日常で我々が使っている視力の数値は少数視力と言います。0が少数視力の1.0、logMAR視力の0.1は少数視力の0.8、logMAR視力の0.3は少数視力の0.5に相当します。 薄くピンクに染められているエリアが、少数視力ならば0.8~1.0に相当するエリアとなり、十分に良く見えるエリアということになります。このグラフでは、遠方から近方(33cm)まで、連続して良く見えるということを表しています。 弱点は夜間の見え方のハロー・グレア(夜間に光が滲んで見えたり、眩しく感じたりする)が感じやすい点です。白内障患者様の多くが手術前にハロー・グレアの症状は自覚しておられ、それより強くなるということではありません。ほとんどの方は「確かに感じるけれども、慣れたら気にならない。それよりも日常生活のメリットの方がはるかに上回る」と感じると思います。
Intensity インテンシティ(五焦点眼内レンズ) Hanita Lenses社
このレンズは世界初の五焦点(!)眼内レンズです。開発したのはイスラエルのHanita Lensesという会社です。我々日本人はイスラエルと聞いてもピンときませんが、イスラエルはユダヤ人のお国であり、世界屈指の機械・化学メーカーなど多数あります。ユダヤ人創業者による世界的企業は、Google、Facebook、マクドナルドなどなど、枚挙にいとまがありません。
FineVision
光学部3mmのエネルギー配分
光学ロス 6.5%
遠方:42%
中間:約25.75%
近方:約25.75%
合計:93.5%
主なメリットとしては、
① 光効率の最大化。光学エネルギーロスが6.5%と、現存する多焦点眼内レンズの中では最もロスの少ないレンズとなります。
② 遠方、遠中(1m前後)、中間(70cm前後)、中近(50cm前後)、近方(40cm前後)の五焦点とんり、遠方から40cmにおいて、視力の落ち込みの妥協のないレンズとなります。
ということになります。
レンズの光配分の味付けは、アルコンのPan Optix(パンオプティクスの説明ページにリンク)によく似ております。ただし、近方距離は+3.0D負荷で40cm程度の距離が見えやすくなるように設計されております。かなり明るい照明下では近方のエネルギー配分が増えますが、通常~暗所時の各距離へのエネルギー配分はそれほど変わらず、ALSAFIT FOURIERに似ております。五焦点レンズということで、ALSAFIT FOURIERよりも配分される距離は多いのですが、光学ロスが少ない分、近方もALSAFIT FOURIERとほぼ同等のエネルギーを配分しますし、遠方は40%以上配分されているので、非常にバランスのよいレンズであると思います。
乱視矯正レンズは現時点では未発売です。
■ Intensityが向いてる方
バランス型のレンズであり、大きな弱点は見当たりません。強いていえば、近方は、+3.0D負荷(40cm程度)ということで、近くを見る時の距離感が思ったよりも離れている感じを受ける方もおられるかもしれません。この辺りは、それぞれの方の体格(腕の長さ)によっても感じ方は変わります。ハローグレアが少ないため、夜間の車の運転頻度の高い方も使いやすいです。また、初期の緑内障や、黄斑前膜(網膜前膜)などの軽度の網膜疾患を有する方も、単焦点レンズと変わらない感覚で使用することが可能です。
焦点深度拡張型(EDOF)レンズ
焦点深度拡張型レンズは、最近登場した新しいコンセプトのレンズです。英語で書くと、Extended Depth of Focus となり、専門家の間ではEDOFレンズと呼ばれます。光を遠方と近方に振り分けていた、従来の回折型と違い、光を振り分けることなく、見える範囲を広げますので、より単焦点レンズに近い見え方となります。ただ、近方の見え方は少し弱いので、見え方の質重視でほぼほぼ裸眼で生活できれば手元の細かい文字は眼鏡をかけても良い方や、緑内障・網膜疾患等がある方で老視矯正をご希望の方などに合ったレンズとなります
メリット
単焦点レンズに近い見え方で見える距離を広げているため、より自然な見え方。順応に時間がかからず視力が出やすい。夜間の見え方も自然(ハローグレアが少ない)。
デメリット
40cmより近い距離での近方視力。
三焦点EDOF
読んで字のごとく、より自然に近い見え方を提供しながら(EDOF)、かつ、三焦点で近方も良く見えるようにしようというコンセプトのレンズです。近年、海外で新しく出てくる多焦点眼内レンズはほとんどがこのタイプとなります。
メリット
EDOFレンズの特徴であるより自然な見え方。夜間の見え方も自然(ハローグレアが少ない)。
デメリット
アクリバトリノバに関しては40cmより近い距離での近方視力。
各EDOF・三焦点EDOFレンズの詳しい説明
Clareon Vivity
ミニウェル
アクリバ トリノバ
アルサフィット フーリエ
Clareon Vivity(波面制御型マルチ眼内レンズ)Alcon社
Clareon Vivityは焦点深度拡張型レンズ(EDOF)ですが、Alcon社独自の波面制御型多焦点眼内レンズで今までの多焦点眼内レンズで感じられていた、不快感の軽減が期待できます。選定療養となります。
■ Alcon社独自の波面制御型
Alcon社独自の波面制御型でハロー・グレア・夜間光視症と多焦点眼内レンズ特有の異常光視症を単焦点レンズと同程度まで軽減されています。優れた遠方視と中間視および実用的近方視を実現しています。これにより術後の眼鏡依存率の軽減が期待できます。
■ Clareon Vivityが向いている方
夜間の運転頻度が多く夜間光視症が気になる方にはこのレンズをお勧めすると思います。
MINI WELL READY ミニウェル(EDOF眼内レンズ)※乱視矯正レンズあり SIFI社
ミニウェル(MINIWELL)とは、遠方から近方までスムーズに見える画期的な多焦点眼内レンズです。乱視矯正レンズもあるので、乱視の強い方も使用できます。
MINIWELL
光学部3mmのエネルギー配分
光学ロス 5~6%
不明
遠、中、近への光の分配率につきましては、ミニウェルは、光を分割しております回折型とデザインが全く異なり、光をミックスさせて遠方から近方まで連続した焦点を作り上げておりますので、特定の距離に対する光の分配率を明確化させるのは非常に難しいことをご理解いただきますようお願い致します。
※当院からの問い合わせに対するメーカーからの回答
■ 回折型多焦点レンズとEDOFレンズであるMINIWELLの違い
従来の多焦点眼内レンズは遠方と近方というように、限られた範囲にしかピントが合いませんでしたが、MINIWELLは、遠方と近方まで幅広い範囲が見えるようになります。また、夜間のライトが眩しくなく、視界がクリアです。回折型多焦点眼内レンズの場合、散乱光が発生しやすく、夜間運転中など見えにくい原因となっています。
■ MINIWELLが向いてる方
遠方視力と中間距離視力により強みがあるため、スポーツをされるような方など、遠方重視の方や料理やデスクトップのパソコンをご覧になる方など、中間距離重視の方に向いています。ハローグレアが少ないため、夜間の車の運転頻度の高い方も使いやすいです。
回折型レンズと違い、レンズの中央部分が遠方視を担当し、周辺部が中間~近方視を担当するので、瞳孔径がある程度大きな方(当院の術前検査でわかります)、比較的若い世代の方には最適なレンズとなります。また、初期の緑内障や、黄斑前膜(網膜前膜)などの軽度の網膜疾患を有する方も、単焦点レンズと変わらない感覚で使用することが可能です。
Acriva Trinova アクリバ トリノバ(三焦点EDOF眼内レンズ)※乱視矯正レンズあり VSY社
AcrivaUD Trinova IOL(アクリバ トリノバ)は、オランダのVSY Biotechnology社が製造している眼内レンズです。光学部はエッジがシャープでない同心円状のパターンとなっていて、ハロ(光の輪状散乱)、グレア(光のにじみ)が少ない構造になっています。中間用として+1.5D、近方用として+3.0Dが加入されていて、さらにEDOF(Enhanced Depth of Focus)という焦点深度を広げる機能を追加して、遠方、中間、近方がスムーズにみえるように設計されています。また、乱視を矯正できるトーリックレンズもあります。近方の度数が+3.0Dということで、40cmより離したほうが見えやすくなります。2017年10月にヨーロッパCEマークを取得し販売を開始しました。
Acriva Trinova
光学部3mmのエネルギー配分
光学ロス 8%
遠方:約36%
中間:約30%
近方:26%
合計:92%
Acriva Trinovaの最大の特徴は、92%の光が遠方から近方に焦点があっており、他の回折型マルチフォーカルに比べ、効率的に使われています。どの瞳孔径でもほぼ同じ光の量が遠方、中間、近方に収束し光学ロスが少ないため、より見え方の質が良いことが予想されます。味付けは完全にバランス型です。
■ 見え方
Acriva Trinovaの解像力を他のトリフォーカルIOLと比較すると、明るいところ、暗いところともに遠方、中間、近方ともに良好な見え方を示しています。
■ 色収差
Acriva Trinovaのアッベ数(透明体の色分散を評価する指標)は58という高い値を示しており、アッベ数が低い(下右図)ほど色収差(色のにじみ)が発生しやすくなりますが、Acriva Trinova(下左図)は色収差が少なくシャープに見えます。
■ Acriva Trinovaが向いてる方
遠方視力と中間距離視力により強みがあるため、スポーツをされるような方など、遠方重視の方や、楽器演奏を趣味にされている方、デスクトップのパソコンをメインに使っておられる方など、中間距離重視の方に向いています。近方も悪くはないですが、+3.0D負荷(40cm程度)ということで、他のレンズに比べて、やや離し気味に見た方が良いかもしれません。体系が大柄な方は問題ないでしょう。ハローグレアが少ないため、夜間の車の運転頻度の高い方も使いやすいです。また、初期の緑内障や、黄斑前膜(網膜前膜)などの軽度の網膜疾患を有する方も、単焦点レンズと変わらない感覚で使用することが可能です。
ALSAFIT FOURIER アルサフィット フーリエ(三焦点EDOF眼内レンズ)※乱視矯正レンズあり ALSANZA社
ALSAFIT FOURIER IOL(アルサフィットフーリエ眼内レンズ)は、ドイツのAlsanza Medizintechnik und Pharma社が製造している眼内レンズです。白内障手術後または老視治療のための水晶体摘出後の嚢内に挿入するシングルピース型マルチフォーカル眼内レンズです。
ALSAFIT FOURIER IOLは光学部6mmすべてが同心円状のスムーズな波状の回折パターンで、グレア(光のにじみ)やハロ(光の輪状散乱)が少ない構造となっています。
近方用として+3.55D(35cm)、中間用として+1.77D(70cm)が加入されたトリフォーカルで、reverse apodization(逆アポダイズ、中心部から周辺部に向かって溝を高くする)のフーリエ光学部となっており、すべての距離に高品質の見え方を提供できるように設計されています。
2018年9月にヨーロッパCEマークを取得し、販売を開始しました。
ALSAFIT FOURIER
光学部3mmのエネルギー配分
光学ロス 8.6%
遠方:約33%
中間:約32%
近方:26%
合計:91.4%
ALSAFIT FOURIERの最大の特徴は、91.4%の光が遠方から近方に焦点があっており、効率的に使われています。どの瞳孔径でもほぼ同じ光の量が遠方、中間、近方に収束し光学ロスが少ないため、より見え方の質が良いことが予想されます。味付けは完全にバランス型です。
要するに、前述のAcriva Trinovaと非常に特徴が良く似通っているレンズということになります。Acriva Trinovaとの最大の違いは、近方加入度数の違いで、Acrivaは40cm前後が見えやすくなり、ALSAFITは35cm前後が見えやすくなります。この5cmの差は、結構大きいです。
■ 見え方
瞳孔径2mm、3mm、4.5mmの解像力試験での見え方を示します。遠方、中間、近方のいずれの距離もクリアに見えています。
■ 色収差
色収差はレンズ材質の屈折率によって決まりますが、ALSAFIT FOURIER IOLのアッベ数は58という高い値を示しており、色収差が小さい材質を使用しています。
■ ALSAFIT FOURIERが向いてる方
基本はAcriva Trinovaと同じですが、中間距離視力と近方視力により強みがあるます。近方は、+3.5D負荷(35cm程度)ということで、近くを見る時の距離感も日本人向きと言えます。ハローグレアが少ないため、夜間の車の運転頻度の高い方も使いやすいです。また、初期の緑内障や、黄斑前膜(網膜前膜)などの軽度の網膜疾患を有する方も、単焦点レンズと変わらない感覚で使用することが可能です。