COLUMN 院長コラム

乱視用眼内レンズの有効性について

毎回書いておりますが、光陰矢の如し・・・。前回コラム更新から3ヶ月を経て、心地よい秋風を感じる季節になりました。

去る10月9日、10日に年に一度の地元のお祭りである大津祭が開催されました。地元の方ならご存知でしょうが、江戸時代から続く伝統のお祭りであります。簡単に言いますと、祇園祭に良く似た祭で、曳山にからくり人形が乗っているのが特徴です。当院のある場所は旧町名で「湊町」と言い、「石橋山」という曳山を有しております。私の息子は鉦(カネ)を叩いており、私自身は裃を着て、曳山について回ります。

この写真は本祭の朝出発前の写真ですね~。寝ぼけた顔をしております。自分の生まれ育った地元に、このようなお祭りがあって幸せだとつくづく感じております。また来年のお祭りが楽しみですね。もし、一度も見に来たことがない方がおられたら、来年は是非見に来てください!

さて、前にコラムでも触れたことのある乱視矯正眼内レンズですが、昨年8月の発売以来、30眼以上に使用させて頂きました。結果は非常に良好であり、私にとっては最早、欠かすことの出来ないアイテムとなっております。

乱視と一口に言いますが、いろいろあります。大きく、「正乱視」と「不正乱視」の二つに分けることができます。「不正乱視」は、角膜疾患などにより、左右非対称の不正な形になっている為の乱視であり、乱視矯正眼内レンズの適応には入りません(不正乱視の目でも状況に依っては使用することがありますが、話がややこしくなりますので、今回は触れません)。ここでは「正乱視」の矯正について語らせて頂きます。

(正)乱視は角膜による乱視成分と水晶体による乱視成分のバランスによって、決まってまいります。このバランスが加齢(白内障の進行)とともに崩れやすくなり、「年をとると乱視が増えた・・・」と訴える方が多いのは周知の事実です。
角膜の乱視がそれ程なく、白内障の進行により水晶体の乱視が増えてきた方ならば、通常の眼内レンズで手術を受けても、水晶体による乱視成分がかなり軽減されるので、良好な裸眼視力が期待できます。

しかし、角膜乱視がもともと強く、それを水晶体による乱視成分で打ち消しあって、眼球全体では乱視がほとんどない方もおられます。そのような方が、通常の眼内レンズで手術を受けますと、水晶体による乱視が少なくなる分、角膜乱視が前面に出てしまい、結果的には白内障術後に、「手術前よりも乱視が増えてしまう」という結果になってしまいます。乱視矯正眼内レンズが登場するまでは、「もともとの目の形のせいですから、仕方ないですね。見にくい時は眼鏡をかけて下さい。」と説明していたわけですが、このレンズが登場してからは、そうなる可能性を事前に察知し対策を打てるようになりました。
因みに、当院ではウェーブフロントアナライザーを導入しておりますので、角膜乱視成分、水晶体乱視成分、眼球全体の乱視成分を事前に把握して手術を施行することが可能です。
文章で書いているだけでは、わかりにくいので、実例をお示し致します。


手術前の乱視成分です。上から、Cornealと書いてあるところが「角膜乱視成分」、Ocularは「眼球全体の乱視」、Internalは「水晶体乱視成分」です。この図をみると、この患者さんは、1.71とそこそこ強い角膜乱視があるにも関わらず、1.13の水晶体乱視成分で打ち消され、眼球全体では0.66とほとんど乱視のない目になっておられます。この目に通常の眼内レンズを挿入しますと、水晶体乱視成分がほとんどなくなりますので、1.71の角膜乱視成分が表に出てまいります。この症例には、患者様に検査結果をお見せし、詳しくご説明した上で、乱視矯正眼内レンズを角膜の乱視を打ち消す方向に挿入いたしました。結果、


このように、眼球全体では0.48とほとんど乱視のない状態となり、良好な裸眼遠方視力が出て、患者様も満足されておられます。患者様にとっては、「もともと乱視なんて言われた事がなかったので、当然だ」とお考えになられるかとも思いますが、医療機器の発達があってこその結果でございます。ただ、角膜乱視も時間や年齢とともに変化するものですので、「乱視をなくす」目的で使用するわけではないことは御理解下さい。あくまでも「通常の眼内レンズを使用するよりも乱視を減らす」というスタンスで使用しております。乱視矯正効果には個人差があり、どのような乱視に対しても、今回お示ししたような結果が出るわけではないということもご了承くださいませ。

また、乱視がある方全員にこのレンズを使用するわけではございません。元々、遠近両用眼鏡に慣れておられるかたならば、眼鏡に乱視を加入すれば良く見えますので、無理に矯正する必要はございませんし、「眼鏡なしで、ある程度、遠くも近くも見えれば良い」という方なら、少々の乱視があった方が、希望に添える場合もございます。使用レンズに関しましては、患者様の御希望と、様々な術前検査の結果を、私が総合的に勘案して決定いたします。勿論、その際にはしっかりと説明させて頂きます。

当院では、少しでも患者様の御期待に添えるように努力しております。このように、より良い視機能を供給できるアイテムが登場したことは喜ばしい限りです。